大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和61年(う)1421号 判決 1987年8月31日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

<中略>

なお、原判決の量刑の相当性につき職権で調査判断するに、本件各犯行の罪質、態様、犯行回数、横領金額、犯行後、前示のとおり被告人が重要な証拠となるべき内容の委任状を偽造して本件審理に提出するという挙に出た等の情状に照らすと、被告人を懲役二年に処した原判決の量刑が不当に重いとは認められない。

この点に関して付言すると、本件については、昭和五二年五月二日原判示第四の事実(一二〇万円の横領)につき、また、同月一〇日、原判示第二の事実(一〇〇万円の横領)につき、それぞれ公訴が提起され、同五三年三月二七日長野地方裁判所は、右各公訴事実につき有罪と認めて、被告人を懲役一年二月に処する旨の判決を言い渡し、これに対し弁護人から控訴申立がなされ、同五五年四月二日東京高等裁判所は、原判決を破棄し、事件を長野地方裁判所に差し戻す旨の判決を言い渡し、その後、同五六年三月三〇日原判示第三の事実(額面二九〇万円の小切手の横領)につき、また、同五七年三月二六日原判示第一の事実(合計三〇五万円の横領)につき、それぞれ公訴提起(追起訴)がなされ、原裁判所は、以上の四個の公訴事実につき併合して審理を行つた結果、いずれについても有罪と認め、これらにつき被告人を懲役二年に処する旨の判決を言い渡したものである。そして、右のとおり、弁護人による控訴申立(原審差戻判決)後、新たに追起訴がなされ、これについても有罪と認められる以上、原審判決につき刑訴法四〇二条所定の刑の不利益変更禁止の原則がそのまま適用になるものでないことは明らかであるうえ、右追起訴にかかる各犯行の態様、横領金額等にかんがみ、かつ、前示のとおり、原審においては、第一次控訴審で本件の証拠として採用された委任状は被告人により偽造されたものであることが判明したことなど諸般の情状に照らせば、原判決の量刑が同法の右規定の趣旨に反して違法であると解する余地もないものと認められる。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用を負担させることにつき同法一八一条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官岡田光了 裁判官近藤和義 裁判官坂井 智)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例